人工股関節置換術は、骨盤側の受け皿(臼蓋:きゅうがい)にカップ、太ももの骨(大腿骨:だいたいこつ)にステムと呼ばれるインプラントを設置します。カップにはライナーと呼ばれる軟骨の役割をするインプラントを設置し、ステムの先端にはボールを接続します。ライナーのなかでボールが動くことで股関節の動きを再現します。
最小侵襲手術MISは約20年前に日本に入ってきた概念で、その手技も20年前に比し大きく進歩しました。しかし、20年前の手技も未だに最小侵襲手術MIS、最新の医療技術として宣伝されています。最小は言葉の意味から本来ひとつであるべきですが「最小侵襲」や「MIS」という言葉が固有名詞化しています。当院では、最小侵襲手術MISの中でも組織をより温存した組織間温存法(AMIS)を行っています。
2000年代初めのMIS手術は皮膚切開のみを小さくする(股関節周囲の筋肉は切開する)MIS(Mini oneともいいます)でした。その後、2000年代中頃、Mini oneでは切離していた股関節周囲の筋を温存する筋温存MISが紹介され、当時は究極のMISとまで言われました。この筋温存MISでは股関節に至る進入法は2通りあります。1つは大腿筋膜張筋という筋肉の前から入るDAA、もうひとつは大腿筋膜張筋の後ろから入る方法です。後者は、手術を行う際に患者様を側臥位にする場合にAL(あるいはOCM)、仰臥位にする場合にALSと呼ばれます。これらの手術をするために、手術器具も進化し、その後、ますます筋や組織を温存できるようになりました。
2010年代には筋温存MISでは実は小さな筋肉を一部損傷していることが多いことが判明しました。この小さな筋も損傷しない筋完全温存MISの手技が報告されました。さらにその後、筋肉だけでなく股関節周囲の靭帯(関節包)も温存するMIS手術が報告されました。当初の筋温存あるいは筋完全温存MISでは切除していた股関節周囲の靱帯を温存することで、さらに脱臼しにくい安定した股関節を再建できるようになりました。組織間温存法(AMIS)は、股関節周囲の筋肉や靭帯に加えて、さらに筋肉の関節包への付着部や組織の間に存在する滑液包などの微小な組織も温存するMISです。
このようにMISと言っても小切開MIS(Mini one)から組織間温存法(AMIS)まで色々な手技があることが分かります。
組織間温存法(AMIS)は誰もが行える手術ではありません。手術をするには、まずご献体を使った手術手技のトレーニングをうけなければなりません。その後、初めて組織間温存法(AMIS)で患者様の手術をする際には、必ず熟練者がインストラクターとして手術に立ち会い指導するようなシステムになっています。2020年11月現在、日本全国でインストラクターは9名に増え、全国で150名程度の医師が組織間温存法(AMIS)で人工股関節手術を行っています。
当院では、できる限り低侵襲な手術を心がけて治療に当たっています。残念ながら変形の程度などにより、すべての患者様に組織間温存法(AMIS)を行うことはできませんが、2020年4月時点のわれわれのデータでは、約85%の患者様に組織間温存法(AMIS)を行っています。変形が強いなどの理由で組織間温存法(AMIS)が適用できなかった患者様 約15%のうち約10%の患者様には靱帯を一部切除しますが筋腱を温存するMISを適用しています。
股関節の痛みで困っている患者様、やりたいことが股関節の痛みで制限されてしまっている患者様は是非ご相談ください。
一般的に、皮膚のしわと傷が同方向になった方が傷は綺麗に治ることが知られています。しかし、多くの最小侵襲MIS人工股関節置換術では筋肉の走行に沿って皮膚切開を加えるため皮膚のしわと交わる方向に手術創ができます。当院では、患者様の体型や股関節の変形の程度によりますが、9割以上の女性患者様に皮膚のしわと同方向に約6〜8cm程度の手術創を作っています。小さいだけでなく、きれいに治ることが期待できます。ただし、男性の患者様や女性の患者様でも体格や変形の程度により、通常通り皮膚のしわと交わる方向に傷を作ることがあります。
臼蓋形成不全症に対する寛骨臼回転骨切り術は、骨盤を寛骨臼の形にそって骨切りし移動させ、骨頭の被覆を多くする手術です。身体の横を切開して骨切りする部分を展開する寛骨臼回転骨切り術(RAO)がポピュラーな手術方法です。身体の前方から骨切り部を展開し同様に骨切りする方法としてCPOやSPOがあります。RAOに比し、CPOやSPOは皮膚切開が小さく、筋への負担も少なくなります。CPOとSPOは展開部分はほぼ同じですが、骨の切り方が異なります。それぞれに利点、欠点があるため、われわれは患者様の骨の状態でCPOとSPOを使い分けています。
CPOやSPOの骨切り部を展開するために、従来の方法では一部の筋を切離し、表層の骨を一部切って深部(骨切り部)を展開していました。われわれは、筋を全く切離せず温存し表層の骨を切らない縫工筋内側筋間進入で、CPOやSPOを行っています。従来、低侵襲な骨切り術といわれていたCPOやSPOにおいて、さらに低侵襲になることが期待できます。
患者様の体型や股関節の変形の程度によりますが、寛骨臼回転骨切り術(CPO,SPO)の手術創は7〜9cm程度です。手術の傷は皮膚のしわと同じ方向に作った方が、綺麗に目立ちにくくなおることが知られています。CPOやSPOでは、通常、皮膚のしわと交わる方向に傷が作られることが多いですが、われわれは女性患者様の90%以上の方に皮膚のしわと同じ方向に傷を作っています。傷が小さいだけでなく整容面でも目立ちにくく綺麗になおることが期待できます。
ただし、男性の患者様や女性の患者様でも体格や変形の程度により、通常通り皮膚のしわと交わる方向に傷を作ることがあります。
股関節鏡という小さなカメラを関節内に入れて、そのカメラの映像を見ながら関節内の治療を行います。1.5cm程度の小さな傷を2〜3カ所作成します。筋肉への負担も少なく手術後の回復が早いことが特徴です。主に股関節唇損傷などが関節鏡での治療の対象になります。